アンダーカットは、ライバルよりも先にピットに入り、順位を上げること
決勝レースで、前を走るライバルより先にタイヤ交換することで順位をあげる戦略のこと。タイヤの性能が低下しラップタイムが落ちる前に新しいタイヤでペースアップすることで可能になる。近年のピレリ・タイヤは距離を走ることでの性能低下が激しく、1周分多く走るだけでもラップタイムが悪くなることを利用する。
サーキット特性やタイヤの種類によっては性能低下が少なく、アンダーカットが有効な作戦ではない場合もある。
またタイヤ交換後コースに復帰した際に、周回遅れや直接順位を争っていない他車(トラフィック)に出会ってしまう場合は、新しいタイヤの高い性能を活かせずに、アンダーカットが失敗する場合もある。
もちろん早くピットに入る分だけ、次のスティントの周回数が増えることになることには注意が必要。
逆にライバルより遅くタイヤ交換を行うことで、前に出ることをオーバーカットという。
実際のアンダーカットの例
ここでは2018年F1アメリカGPで見られたアンダーカットの例を挙げる。このレースの21周目終了時点、メルセデスのバルテリ・ボッタスは3位を走行。レッドブルのマックス・フェルスタッペンはボッタスから約2.2秒差の4位を走行していた。ボッタスはスタート時から中古のスーパーソフトタイヤ(SS)を履き、フェルスタッペンはスタートから新品のソフトタイヤ(S)を履いていた。
本来、フェルスタッペンは、新品のソフトタイヤなのでピットインまでの時間を長くすることもできたはずだったが、ボッタスを抜きあぐねていたため、レッドブルチームが無線で「ボッタスの逆を行こう」と指示をする、つまり「ボッタスが引っ張るなら、自分たちは早くタイヤを変えてペースをあげよう」という意味と思われる。
22周目にピットインしたフェルスタッペンは、柔らかいSSタイヤの利点を活かし、アウトラップと次の周回で猛プッシュ(下表赤字)。1周遅れてタイヤ交換を行ったボッタスがピットアウトした時に、フェルスタッペンはボッタスの前に出て逆転に成功した。25周目終了時点でフェルスタッペンはボッタスに対して2.5秒の差をつけて前に立った。
周回 | ボッタス (タイムとタイヤ) |
フェルスタッペン (タイムとタイヤ) |
||
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21 | 1’41.209 | SS | 1’40.525 | S |
22 | 1’40.824 | SS | 1’40.574 (インラップ) |
S |
23 | 1’40.318 (インラップ) |
SS | 1’56.380 (アウトラップ) |
SS |
24 | 1’59.447 (アウトラップ) |
S | 1’38.945 | SS |
25 | 1’40.090 | S | 1’39.624 | SS |
このときの2人のピットストップ・ロスタイムは、フェルスタッペンが23.446秒、ボッタスが23.478秒。ほとんど同タイムであり、フェルスタッペンはピット作業で優位には立っておらず、タイヤ交換後のペースアップで2.2秒を詰め、さらに2.5秒の差を作り出すに至ったことになる。またボッタスがSSタイヤから、硬めのソフトタイヤに変更し、ペースが上がらなかったことも要因の1つと言える。